小児期の虐待的経験と脳への影響

小児期の虐待的経験を受けることによって恐怖回路全体に構造的な変化が出ます。
脳の部位には感受性期、特に影響を受けやすい時期があることがお分かりいただけたと思います。

虐待・ネグレクトは恐怖回路全体に影響するように思えるのですが、実際は虐待・ネグレクトの種類や受ける年齢によって影響の受け方が変わってくるので、将来的には虐待を受けた種類や年齢によって治療方法を変えることができるかもしれません。

国立精神衛生研究所が最近言い始めたのが、精神疾患はDSM‐ⅤやICD‐10 という診断基準を使うのですが、実際の研究ではこの診断基準があまり役立たないのではないかということです。

この診断基準の代わりに何を使い始めたかというと、以下の5 つのドメインです。
1. 否定的システム(恐れ、不安、喪失)
2. 肯定的システム(報酬、学習、習慣)
3. 認知システム(注意、知覚、記憶)
4. 社会的プロセスへのシステム(愛着、伝達、自分と他者の理解)
5. 覚醒と調整システム(覚醒、日内リズム)

どこのドメインも虐待によって影響を受けると思いますが、2 番目の肯定的システム、報酬についてお話します。
虐待を受けた子どもたちは報酬予測に問題があります。

サンタさんからプレゼントをもらうと、箱を開けるといいものが入っていると思いますよね。
しかし虐待を受けた人たちは、箱を開けると「プレゼントは入ってないよ。箱はスッカラカンだよ。」といった物事の見方をすると言われています。


報酬予測を調べるためにギャンブル課題を行いました。
被験者たちはギャンブルの報酬が大きいか、またはどれくらい大きな負けがくるか予測します。
側坐核と腹側被殻は、報酬予測によって反応する部位です。



何かいいものが貰えるなと思うと側坐核と腹側被殻が反応します。
性的虐待を受けた人が被験者となって対象群と比較したところ、報酬への期待がすごく薄いことが分かりました。

劣悪な施設環境で育ったルーマニアの孤児の研究では、報酬の価値が大きくなるほど対象群(普通の家庭で育った子ども)はどんどん報酬予測が高くなりますが、孤児群は報酬の価値が上がっても報酬予測が上がりませんでした。

線条体を調べると、0 歳から1 歳くらいのときの虐待・ネグレクトが一番大きく影響していました。
恐怖だけではなく、報酬も子どもの頃の虐待・ネグレクトによって影響を受けることがお分かりいただけたと思います。

つまり、恐怖から逃げる、報酬をもらえないと思うことも影響を受けるということは、もしかしたら危険かもと思う状態で、その危険を回避すると同時に、この人あまり私に対していいことを言ってくれない、報酬を貰えないと思うと、そこに接近することをしなくなります。
回避も接近もあまりしなくなるという状態が起きるでしょう。


脳の中のネットワークについて

対象群では、前帯状回がソーシャルネットワークで言うキーパーソンとなり、真ん中で1 番つながっています。
それに比べて虐待・ネグレクトを受けた人は周りとのつながりがほとんどできていません



ほかにも2 つ大切だと思われる場所があります。
虐待・ネグレクトを受けている人では右楔前部を中心にたくさんネットワークができています。
右前島も虐待・ネグレクトを受けた人では周りといっぱいつながっています

島の働きをみたところ、PTSD の症状が重いほど島の反応が高いことが分かりました。

前帯状回は感情の調節をするところで、前島は主観的感情や、自己認識に重要な機能を及ぼします。
楔前部は自分のことについて考える、自分を中心として心的イメージをつくる機能があります。

虐待やネグレクトを受けた人たちは前帯状回のネットワークが減少していて、楔前部と前島のネットワークが過剰に形成されているのを見ていただきました。
これはどういう意味かと言うと、感情とか体の中で起きることに過剰に反応する割には感情調節ができないので、それによって精神疾患が起きてしまうのではないかと考えられます。


脳科学からみた子ども虐待(引用文献)(PDF)

紹介 Azusa Nakano

中野システム研究所 所長

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