愛着障害の克服 虐待による第4の発達障害 「幼少期の虐待 損害賠償 判例」

【釧路・性的虐待訴訟】

●被害女性の勝訴確定=幼少期、親族が性的虐待-除斥期間認めぬ二審支持・最高裁
       時事(2015/07/09-19:00)
 幼少期の性的虐待で心的外傷後ストレス障害(PTSD)やうつ病を発症したとして、北海道釧路市出身の40代女性が叔父に損害賠償を求めた訴訟で、最高裁第2小法廷(山本庸幸裁判長)は8日付で、叔父側の上告を退ける決定をした。女性の請求をほぼ認め、叔父に約3000万円の支払いを命じた二審札幌高裁判決が確定した。

 訴訟では、不法行為から20年で賠償請求権が消滅する「除斥期間」が経過したかどうかが争点だった。叔父は虐待について一部認めていた。
 二審判決によると、女性は3歳から8歳にかけて叔父から繰り返し性的虐待を受けた。これが原因で1983年ごろにPTSDなどを、2006年ごろにうつ病を発症したが、病名の診断を受けたのはいずれも11年だった。

 一審釧路地裁は、除斥期間の起点を遅くとも最後に虐待のあった83年と判断し、女性が提訴した11年には20年が経過しているとして、女性の請求を棄却した。

 これに対し、二審はそれぞれの病気の発症時期を起点に判断。PTSDは除斥期間が経過しているが、うつ病は経過していないと指摘し、叔父に慰謝料2000万円や治療費約900万円などの支払いを命じた。

 女性側は、親や兄弟を含む親族間の幼少期の性的虐待では(1)家族関係が破綻することを恐れ、被害を隠そうとする(2)親などが虐待を知っても、加害者をかばう-などの特徴があると指摘。女性も当てはまり、成人になるまで賠償請求は困難だったとも主張したが、一、二審は「請求が不可能とは言えない」として、認めなかった。


●幼児期の性的虐待に賠償命じた判決確定
        NHK 7月9日
幼い頃に親族の男性から性的な虐待を受けてうつ病などを発症した北海道の女性が起こした裁判で、「被害から20年以上が経過しているが、女性は時間がたってからうつ病になったもので賠償を認めることができる」と判断して、男性に3000万円余りの支払いを命じた判決が最高裁判所で確定しました。

この裁判は、幼い頃に親族の男性から性的な虐待を受けた釧路市出身の40代の女性が、その後うつ病などを発症して男性を訴えたもので、裁判では時間がたっているため女性に賠償を求める権利があるかどうかが争点になりました。

1審の釧路地方裁判所は「被害から20年以上が経過しているため法律の規定で賠償を求めることはできない」と退けましたが、2審の札幌高等裁判所は「うつ病は時間がたってから平成18年ごろに症状が出ており発症を基準にすべきだ」として3000万円余りの支払いを命じていました。

男性が上告していましたが、最高裁判所第2小法廷の山本庸幸裁判長は、9日までに上告を退ける決定を出しました。
被害を受けた時ではなく、後から病気が発症した時期を基準にして過去の虐待の加害者に賠償を命じた判断は被害者への救済の道を広げるものとなりました。


●「幼少期の虐待」賠償命令確定…除斥期間が焦点

読売 2015年07月09日
 幼少期の性的虐待で心的外傷後ストレス障害(PTSD)とうつ病などを患ったとして、北海道釧路市出身の40歳代の女性が親族男性に約4180万円の損害賠償を求めた訴訟で、最高裁第2小法廷(山本庸幸つねゆき裁判長)は、8日付の決定で男性側の上告を棄却した。

 男性に約3040万円の支払いを命じた2審・札幌高裁判決が確定した。

 2審判決によると、女性は1978年(3歳10か月)から83年(8歳10か月)にかけて、親族の男性から複数回性的虐待を受け、虐待の場面がよみがえったり、悪夢を見たりするなどのPTSDの症状が出た。2006年9月頃にはうつ病も患い、11年4月にPTSDと診断され、提訴した。

 1審・釧路地裁は、PTSDを発症した女性が最後に虐待を受けた83年を、損害賠償請求ができなくなる除斥期間(20年)の起算点とし、提訴時点で除斥期間が経過していたとして請求を棄却した。2審は、うつ病を発症した06年を起算点とし、除斥期間は適用されないとして男性に賠償を命じていた。


●幼少期の虐待:親族男性の賠償確定 最高裁
         毎日新聞 2015年07月09日
幼少期の性的虐待で心的外傷後ストレス障害(PTSD)やうつ病を発症したとして、北海道釧路市出身の40代女性が親族の男性に損害賠償を求めた訴訟で、最高裁第2小法廷(山本庸幸裁判長)は8日付で男性側の上告を棄却する決定を出した。男性側に約3030万円の支払いを命じた2審・札幌高裁判決(2014年9月)が確定した。

 1、2審判決によると女性は幼少期の1978〜83年に男性から性的虐待を受けた。11年、精神障害の原因は性的虐待だったとして提訴した。

 1審・釧路地裁判決(13年4月)は、発症原因を虐待と認めたが、不法行為から20年が過ぎると損害賠償請求権が消滅する「除斥期間」が経過し、請求権を失ったとして請求を棄却した。一方、2審は「PTSDとうつ病は症状や治療方法が異なる別個の障害」と認定。83年に発症したPTSDは除斥期間が経過したとしたが、うつ病については発症した06年を起算点として賠償義務を認めた。【山本将克】


●幼少期に性的虐待でうつ発症、加害男性の賠償確定 最高裁
         日経 2015/7/10 〔共同〕
 幼少期の性的虐待で心的外傷後ストレス障害(PTSD)やうつ病を発症したとして、北海道釧路市出身の40代の女性が親族の男性に損害賠償を求めた訴訟は、男性に約3030万円の支払いを命じた二審札幌高裁判決が9日までに最高裁で確定した。第2小法廷(山本庸幸裁判長)が8日付で男性の上告を退ける決定をした。

 二審判決によると、女性は3~8歳だった1978~83年に男性から性的虐待を受けた。83年ごろにPTSDを、2006年9月ごろにうつ病を発症した。

 争点となったのは、不法行為に対して損害賠償の請求が可能な20年の「除斥期間」の起算点。一審釧路地裁は、性的虐待が原因でPTSDとうつ病を発症したと指摘したが、最後に虐待のあった1983年ごろを起算点とし、「すでに請求権は消滅している」と訴えを退けた。

 二審はPTSDとうつ病は別個の損害と認定。PTSDを発症した損害は請求権が消滅していると指摘したが、うつ病は「発症した2006年9月ごろが起算点で、除斥期間は経過していない」とし、慰謝料や治療費など計約3030万円の支払いを男性に命じた。

 幼少期に性的虐待を受けた被害者は成人になってから被害を訴え出ても、刑事、民事ともに時効が成立したとして泣き寝入りするしかないケースもあるという。自民党のプロジェクトチームは対策を議論しており、時効を成人になるまで停止できるようにする法改正案を盛り込んだ提言を公表している。


●PTSD訴訟で被害女性が「逆転勝訴」 30年前の性的虐待の損害を認定
              ダイヤモンド 2014年9月25日 池上正樹

幼い頃、繰り返し受けた性的虐待により、PTSD(心的外傷ストレス障害)などを発症したとして、最後の被害を受けてから20年以上経過した2011年4月、北海道釧路市出身の提訴当時30代の女性が、親族の男性に約4170万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審で、札幌高裁(岡本岳裁判長)は25日、女性の訴えをほぼ全面的に認め、3000万円余りの支払いを命じる“逆転勝訴”の判決を下した。

1審の釧路地裁の河本昌子裁判長は2013年4月、男性による性的虐待行為や姦淫行為の事実を認め、PTSDなどとの因果関係も肯定しながら、「すでに20年の除斥期間が経過している」として、訴えを退けていた。

3歳~8歳だった原告女性に
わいせつ行為を繰り返した親族男性

女性は同年9月、親族の60代男性から、1978~1983年にかけて複数回、性的虐待行為を受けたことにより、PTSD、離人症性障害、うつ病などを発症、損害を被ったとして、1審の請求額を上回る4100万円余りの賠償を求めて札幌高裁に控訴。裁判では、幼少の頃に受けた性犯罪とPTSDとの因果関係を本人が認識できていなくても、民法724条で定める20年という「除斥期間」が経てば、損害賠償請求権は消滅してしまうものなのかどうかが争われてきた。

判決要旨によると、被害者女性の供述は、「性的虐待行為の具体的な時期、及び内容について、その記憶のとおりに述べたものとみるのが相当である」のに対し、被告の主張は「その正確性に疑いを入れざるを得ない」ことから、概ね原告が主張するとおりのものであったと認めている。

裁判所が認定している事実概要は、次の通りだ。

1978年1月上旬、被告は祖父母宅において、当時3歳10ヵ月の原告に対し、体をなで回すなどの行為をした。

以来、被告は祖父母宅において、毎年1月上旬と8月の2回、原告へのわいせつ行為を繰り返し、行為をだんだんとエスカレートさせていく。

そして、82年8月中旬、被告は祖父母宅において、当時8歳5ヵ月の原告に対し、布団の中に引き込み、着衣の上着を脱がせた上、わいせつ行為に及んだ。

翌83年1月上旬には、被告は祖父母宅において、当時8歳10ヵ月の原告に対し、布団の中に引き込み、着衣を脱がせて裸にした上、わいせつな行為を行ったうえで、姦淫するに至った。

これに対し、被告側は、原告の身体を触るなどの行為が81年1月から83年1月までの4回程度あったことは認めたものの、姦淫行為があったことなどは否認していた。

除斥期間の起算点は
女性がうつ病発症した2006年に

女性はその頃から、フラッシュバック、睡眠障害、回避症状、離人体験、自傷行為などに悩まされてきた。

2006年9月頃からは、著しい不眠、意欲低下、イライラなどの症状に悩まされ、うつ病の疑いと診断。08年頃になると、仕事がまったくできない状態が続いていた。

しかし、2011年3月11日の東日本大震災の報道をきっかけに、自らが苦しんできた諸症状がPTSDによるもので、その原因が性的虐待行為にあることを自覚するに至った。同年4月には、医師から「心的外傷後ストレス障害・抑うつ状態」と診断された。

それに対し、被告側は1審で、被告男性自らが行為を行ってから25年以上が過ぎ、原告の女性がうつ病やPTSDと診断されたのも「ごく最近である」として、「原告の症状は、いまの結婚生活など、これまでの生活状況がストレスになっている可能性が高い」などと主張していた。

判決要旨によれば、精神科医の尋問を踏まえ、原告は被告から性的虐待行為を受けたことにより、83年頃、PTSD及び離人症性障害、高校在学中に摂食障害を発症。06年9月頃、うつ病を発症したものと認めている。

PTSD及び離人症性障害、摂食障害を発症したことを理由にした損害賠償請求権は、原告が訴訟を起こした11年4月には除斥期間が経過している。

ところが、06年9月頃に発症したうつ病は、PTSD及び離人症性障害、摂食障害に基づく損害とは質的にまったく異なるものである。また、うつ病の損害は、性的虐待行為が終了してから相当期間が経過した後に発生したものと認められるとして、除斥期間の起算点は、損害の発生したとき、つまり「うつ病が発症した06年9月頃」というべきだとしている。

請求額については、性的虐待行為により被った過去及び将来10年間の治療関連費や慰謝料など、3000万円余り(ほぼ1審の請求額)が認められた。

“魂の殺人”を踏まえた今回の判決
子どもは虐待を打ち明けられない

PTSDの発症時期は、5~6歳のときから始まっているので認められないと切られている。ただ、うつ病は、性虐待から派生していると判断されているため、実質的には性虐待以降の子ども時代、進学、就職、結婚といった彼女のライフステージごとの損害が認められた格好だ。

原告団の秀嶋ゆかり弁護士は、こう話す。

「彼女はずっと同じ話をしてきた。高裁で本人と精神科医の尋問が行われたことも大きい。性暴力でいわれる“魂の殺人”という実態を踏まえた判断をしてくれた。判決後、彼女は“子ども時代に訴えることはできない。裁判を起こすこと> はとても大変だった”と話していて、時効の起算点がずらせないという仕組みの改善や、本来なら刑事で処罰してほしかったのに民事しかなかったことなど、法改正の必要性を訴えています」

子どもは、加害者から口止めされたり、性的虐待を打ち明けることで自分が家庭を壊してしまうのではないかと悩んだり、家庭が壊れたら孤立を余儀なくされるのではないかと考えたりして、なかなか虐待の事実を打ち明けることができない。

長年、自分の心に封印してきて、いまも声を上げることをためらい、悩み続ける当事者たちにとっても、勇気を与えてくれる画期的な判決となった。


https://blog.goo.ne.jp/teramachi-t/e/b894c1404ed1189a0e5e14e09a0885ba


【釧路・性的虐待訴訟】最高裁で被害者勝訴判決が確定しました! [人身損害賠償について]

【事案の概要】
 以前、札幌高裁判決をご紹介した、釧路・性的虐待訴訟。
3歳から8歳という幼少時に、叔父から性的虐待を受けた被害者が、被害から20年以上を経過した後に、PTSD、解離性障害、うつ病等の重篤な精神的損害を受けたことに対する損害賠償請求訴訟を提起した事件です。
 一審の釧路地裁は、性的虐待の存在、現在の被害との因果関係を認定しながら、民法724条後段の除斥期間が経過しているとして請求を退けました。
 昨年9月、控訴審の札幌高裁は、民法724条後段の除斥期間の起算点を、被害者が30代になってから、うつ病を発症した時期と認定し、被害者勝訴の判決をしました。
 加害者が上告・上告受理申立していましたが、今般、棄却・不受理決定が出て、確定しました。
          
【時系列】
8歳 ① 最後の加害行為(離人症・PTSDは既に発症) 
中学生② 行為の性的な意味に気付く          
高校生③ 摂食障害の発症
18歳 ④ 刑事の公訴時効
20歳 ⑤ 成人
28歳 ⑥ 最後の加害行為から20年の経過
30代 ⑦ 鬱病の発症 
   ⑧ 提訴

http://bengoshi-teramachi.blog.so-net.ne.jp/2015-07-10


幼少期性的虐待除斥期間適用排斥平成26年9月25日札幌高裁判決全文紹介1

○叔父が姪を3歳から8歳まで性的虐待を繰り返して、姪が心的外傷後ストレス障害(PTSD),離人症性障害及びうつ病などの精神障害を発症したとの正に暗澹たる気持ちになる事案について、一審平成25年4月16日釧路地裁判決では除斥期間経過を理由に被害者の請求を棄却していたものを、加害者の除斥期間の主張を排斥した平成26年9月25日札幌高等裁判所判決(判例タイムズ1409号226頁、判例時報2245号31頁)全文を5回に分けて紹介します。

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主   文
1 原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人は,控訴人に対し,3039万6126円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 控訴人のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は,第1,第2審を通じてこれを4分し,その3を被控訴人の負担とし,その余を控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人に対し,4175万1204円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え(控訴人は,当審において,原審における請求(3269万6676円及び附帯請求)をこのように拡張した。)。
3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

第2 事案の概要
1 本件は,控訴人が,昭和53年1月上旬から昭和58年1月上旬にかけて,叔父である被控訴人から,複数回にわたって,わいせつ行為ないし姦淫(以下「本件性的虐待行為」という。)を受け,このことにより,心的外傷後ストレス障害(以下「PTSD」という。),離人症性障害及びうつ病などの精神障害を発症し,損害を被ったと主張して,被控訴人に対し,不法行為に基づいて,損害賠償金3269万6676円及びこれに対する判決確定の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
 原判決は,控訴人の被控訴人に対する本件性的虐待行為を受けたことを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権は,民法724条後段所定の除斥期間の経過により消滅したと判断し,当審における拡張前の控訴人の請求を棄却したところ,控訴人が控訴をするとともに,当審において請求を拡張し,損害賠償金4175万1204円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。

2 前提事実(認定に用いた証拠等(特に注記しない限り,枝番を含む。)は各項の表題部末尾に掲げる。)
(1) 当事者等(甲2~5)
ア 控訴人は,昭和49年□□生まれの女性(父である□□□□)と母である□□□□の長女)である。両親は□□市内に住んでいたが,□□□妹(□□□□),三女□□□□)が生まれたことから,昭和53年ないし昭和58年頃当時,祖父□□□□及び祖母□□□□に預けられ,□□市内にある□□の自宅で生活していた。

イ 被控訴人は,昭和22年○月○○日生まれの男性であり,控訴人の叔父である。被控訴人は,昭和53年ないし昭和58年頃当時□□とは別居していたが,お盆,正月には実家である□□の自宅に帰省していた。

(2) 被控訴人の控訴人に対する性的虐待行為
 被控訴人は,昭和58年1月上旬頃まで,□□の自宅で,控訴人に対し,複数回にわたって性的虐待行為をした(その時期,頻度及び内容には争いがある。)。

(3) 控訴人のその後の生活状況(甲11,12,16,28)
ア 控訴人は,平成4年3月に□□市内の高等学校を卒業後,民間企業での勤務を経て,平成5年4月に□□市内の□□□□に入学した。平成8年3月に□□□免許を取得した後,□□市内の□□で勤務し,平成11年頃に□□市内に転居するとともに,□□県内にある□□□□に入学し,平成13年3月頃に□□□免許及び□□□□免許を取得した。

イ 控訴人は,□□□□と婚姻をした。

ウ 控訴人は,平成17年頃,□□□□を1年間務めた。

エ 控訴人は,□□が□□□□□□を開設したことから,□□□□□勤めるとともに,経理などの事務を含めて統括的な業務に従事していた。□□□□では,同年9月から□□□として勤務を始めた。

(4) 控訴人の治療経過(甲6,11,12,16,54)
ア 控訴人は,平成18年12月頃,□□からうつ病の疑いがあると診断され,抗うつ薬などの向精神薬の処方を受けた。

イ 控訴人は,平成19年7月から,□□□□精神科で通院治療を受けた。

ウ 控訴人は,平成18年7月頃からの不眠,希死念慮などを訴えて,平成21年2月25日から,釧路赤十字病院精神科で通院治療を受けた。
 釧路赤十字病院精神科のA医師(以下「A医師」という。)は,平成23年4月4日,虐待後6か月以内の記憶があいまいだが,控訴人がPTSDを発症していると診断するともに,病名を「心的外傷後ストレス障害・抑うつ状態」とする同日付け診断書を作成した。

エ 控訴人は,平成23年8月1日,東京女子医科大学附属女性生涯健康センター(以下「女性生涯健康センター」という。)のB医師(以下「B医師」という。)の診察を受け,同日以降,同センターで通院治療を受けている。

(5) 控訴人と被控訴人のやり取り(甲13)
 控訴人と被控訴人は,平成23年3月17日,□□市内で会い,その席上,被控訴人は控訴人に対し,本件性的虐待行為の一部をしたことを認め,500万円を支払うとの申出をした。

(6) 本件訴訟の経過(裁判所に顕著な事実)
ア 控訴人は,平成23年4月28日,本件訴訟を提起した。

イ 被控訴人は,平成23年6月13日の原審における第1回口頭弁論期日において,控訴人の被控訴人に対する本件性的虐待行為を受けたことを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権について,消滅時効を援用するとの意思表示をした。

3 争点
(1) 本件性的虐待行為の有無・程度
(2) 本件性的虐待行為による精神障害の発症の有無
(3) 本件性的虐待行為により被った損害の有無・額
(4) 本件性的虐待行為を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権は時効により消滅したか
(5) 上記損害賠償請求権は民法724条後段の規定により消滅したか

4 当事者の主張
(1) 争点(1)(本件性的虐待行為の有無・程度)について
(控訴人)
 控訴人は,昭和53年1月上旬から昭和58年1月上旬にかけて,いずれも□□の自宅で,帰省していた被控訴人から,本件性的虐待行為を受けた。そのうち,現時点で時期及び行為を特定できるものは,以下のとおりである。
ア 控訴人(当時3歳10か月)は,昭和53年1月上旬の午後2時頃,被控訴人から,臀部をなで回される,性器を触られるなどのわいせつ行為を受けた。

イ 控訴人(当時4歳5か月)は,昭和53年8月中旬の午後10時頃,被控訴人から,裸にされる,頬から首筋にかけてキスをされる,舌でなめ回しながら乳房を吸われる,臀部をなで回される,性器に触られるなどのわいせつ行為を受けた。

ウ 控訴人(当時4歳10か月)は,昭和54年1月上旬の午後10時頃,被控訴人から,布団の中で抱きしめられる,パジャマを着ていたのを裸にされる,全身を舌でなめ回される,乳房を吸われる,臀部をなで回される,性器をなで回される,繰り返し性器に指を入れられるなどのわいせつ行為を受けた。

エ 控訴人(当時5歳5か月)は,昭和54年8月上旬の午後10時頃,自分も裸になった被控訴人から,布団の中で抱きしめられる,パジャマを着ていたのを裸にされる,全身を舌でなめ回される,乳房を吸われる,臀部をなで回される,性器をなで回される,繰り返し性器に指を入れられるなどのわいせつ行為を受けた。

オ 控訴人(当時5歳10か月)は,昭和55年1月上旬の午後3時頃,被控訴人から,布団の中に引き込まれた上で,全身をなで回される,胸をもまれる,乳房を指でいじられる,臀部をなで回される,性器を触られるなどのわいせつ行為を受けた。

カ 控訴人(当時6歳5か月)は,昭和55年8月上旬の午後10時頃,被控訴人から,布団の中に引き込まれた上で,全身をなで回される,胸をもまれる,乳房を指でいじられる,臀部をなで回される,被控訴人の性器を握らせ,手淫を強いられる,繰り返し性器に指を入れられるなどのわいせつ行為を受けた。

キ 控訴人(当時6歳10か月)は,昭和56年1月上旬の午後10時頃,被控訴人から,布団の中に引き込まれ,パジャマの上着をめくられた上で,胸を執拗にもまれる,乳房を吸われる,被控訴人の性器を握らせ,手淫を強いられる,繰り返し性器に指を入れられるなどのわいせつ行為を受けた。

ク 控訴人(当時7歳5か月)は,昭和56年8月上旬の午後10時頃,被控訴人から,布団の中に引き込まれ,パジャマの上着を脱がされた上で,胸を執拗にもまれる,乳房を吸われる,被控訴人の性器を握らせ,手淫を強いられる,繰り返し性器に指を入れられるなどのわいせつ行為を受けた。

ケ 控訴人(当時7歳10か月)は,昭和57年1月上旬の午後10時頃,被控訴人から,布団の中に引き込まれ,パジャマの上着を脱がされた上で,胸を執拗にもまれる,乳房を吸われる,被控訴人の性器を握らせ,手淫を強いられる,繰り返し性器に指を入れられるなどのわいせつ行為を受けた。

コ 控訴人(当時6歳5か月)は,昭和57年8月中旬の午後10時頃,被控訴人から,布団の中に引き込まれ,パジャマの上着を脱がされた上で,胸を執拗にもまれる,乳房を吸われる,被控訴人の性器を握らせ,手淫を強いられる,繰り返し性器に指を入れられるなどのわいせつ行為を受けた。さらに,被控訴人は,自分の性器を控訴人の性器に挿入しようとしたが,挿入できず,姦淫には至らなかった。

サ 控訴人(当時8歳10か月)は,昭和58年1月上旬の午後10時頃,被控訴人から,布団の中に引き込まれ,パジャマを着ていたのを裸にされた上で,胸を執拗にもまれる,乳房を吸われるなどのわいせつ行為を受けた。さらに,被控訴人は,自分の性器を控訴人の性器に挿入しようとしたが,控訴人が声を出したことで,不審に思った□□及び□□が控訴人と被控訴人がいた部屋に入ってきたので,このときは姦淫には至らなかった。ところが,被控訴人がその場を取り繕い,□□及び□□が部屋から出て行くと,被控訴人は,自分の性器を控訴人の性器に挿入し,控訴人を姦淫した。

(被控訴人)
ア 被控訴人は,控訴人に対し,
①昭和56年1月頃に,乳首をなめる,性器に指を入れる,
②昭和56年8月頃か昭和57年8月頃のどちらかの時期に,乳首をなめる,性器に指を入れる,
③昭和57年1月頃に,乳首をなめる,性器に指を入れる,
④昭和58年1月頃に,服を脱がせる,乳首をなめる,自分の上に乗せて抱きしめるとの性的行為をしたこと,
⑤④の性的行為の後に,自分の性器を控訴人の性器に挿入しようとしたことは
認めるが,
その他のわいせつ行為はしていないし,姦淫はしていない。

イ 被控訴人は,幼い頃から自分に懐いていた控訴人のことを可愛い姪としてしか見ておらず,実家に帰省した折りには常に添い寝をしていた。しかし,成長するにつれて,よこしまな感情を抱くようになり,昭和56年1月以降,上記アのとおり,性的行為に及ぶとともに,昭和58年1月頃には姦淫を試みてしまったが,挿入する前に我に返るとともに,素直に性的行為に応じる控訴人と自分のことが怖くなり,それ以降は性的行為をしていない。

(2) 争点(2)(本件性的虐待行為による精神障害の発症の有無)について
(控訴人)
ア 控訴人は,本件性的虐待行為を受けたことにより,昭和58年頃にPTSD及び離人症性障害を発症し,高等学校在学中に特定不能の摂食障害を発症した。これらの障害による症状は,睡眠障害,自傷行為(爪かみ),絶望感,過剰な自責感,著しい離人感,フラッシュバック,悪夢,侵入症状に伴う発汗・動悸などというものであり,現時点でも治癒していない。

イ さらに,控訴人は,本件性的虐待行為を受けたことにより,平成18年9月頃に難治性重度うつ病を発症した。当該障害による症状は,著しい睡眠障害,意欲低下,イライラ感,億劫感,胸部圧迫感,頭痛,発汗,体重の減少というものであり,現時点でも治癒していない。

 すなわち,控訴人は,本件性的虐待行為を受けた後,うつ病を発症しないままで推移していたが,平成18年6月頃,□□から,同女も被控訴人から性的虐待行為を受けていたことを知らされるとともに,同年9月から□□□での勤務を始めた□□と毎日接することで,本件性的虐待行為を受けたことに直面せざるを得なくなった。このことに加えて,本件性的虐待行為を受けたことを理由に,妊娠,出産,育児にためらいがあり,当時,妊娠適齢期との関係で,妊娠,出産するかどうかの判断に直面せざるを得なくなっていたことと相まって,うつ病を発症するに至ったものである。

 性的虐待行為を受けたことによりPTSDを発症するとともに,相当期間経過後に,その合併症としてうつ病を発症することは精神医学専門家のコンセンサスとして確認されており,うつ病発症後の経過を踏まえると,うつ病発症の原因が□□□□□過重勤務によるものとは想定し難い。

(被控訴人)
 控訴人が被控訴人から性的行為を受けたことにより精神障害を発症したかどうかは,知らない。

 仮に現時点でうつ病に罹患していても,発症したとする時期は,最後に性的行為を受けた昭和58年1月上旬頃から23年が経過した平成18年9月頃であり,控訴人と被控訴人の関係は良好に推移していた反面,これまでの生活状況がストレス要因となっていることも想定できるのであるから,性的行為を受けたことにより発症したものとみるべきではない。

以上:5,874文字


幼少期性的虐待除斥期間適用排斥平成26年9月25日札幌高裁判決全文紹介2

(3) 争点(3)(本件性的虐待行為により被った損害の有無・額)について
(控訴人)
ア 治療関連費用 95万2350円
 控訴人は,本件性的虐待行為を受けたことにより,PTSD,離人症性障害及びうつ病などの精神障害を発症したため,前提事実(4)の治療を受ける必要があった。そのための治療費,調剤費用,通院交通費及び宿泊費は,合計95万2350円となる。

イ 将来の治療関連費用 960万1854円
 控訴人は,本件性的虐待行為を受けたことにより,PTSD,離人症性障害及びうつ病などの精神障害を発症したため,平均余命である47年間にわたって少なくても1か月に1回の頻度で,女性生涯健康センターで通院治療を受ける必要がある。そのための治療関連費用(治療費,調剤費用,カウンセリング費用及び通院交通費)は,以下のとおり960万1854円となる。
    (計算式)
 4万4500円(通院1回当たりの治療関連費用(その内訳は,治療費が6000円,調剤費用が8000円,カウンセリング費用が1万0500円,通院交通費が2万円である。))×12か月×17.9810(平均余命期間に対応するライプニッツ係数)=960万1854円

ウ 慰謝料 3000万円
 控訴人は,本件性的虐待行為を受けたことで,PTSD,離人症性障害及びうつ病などの精神障害を発症し,その多様かつ深刻な症状により,子ども時代,就職,進学及び結婚といったライフステージを通じて,社会生活上の様々な困難に見舞われ,平成20年頃には,診療所での業務に従事できなくなるだけでなく,家事や身の回りのこともできなくなった。現時点でもPTSDとうつ病は治癒せず,症状固定していないが,これらの精神障害が日常生活に及ぼしている支障の度合いは,自動車損害賠償保障法施行令別表第2の第3級3号に該当するほどであり,引き続き長期間の通院治療を受ける必要がある上,寛解しないおそれがある(なお,控訴人は,同後遺障害に基づく逸失利益を請求できるところであるが,争点を絞るべくその請求は行わない。)。
 他方,被控訴人は,前提事実(5)のやり取りの際,当初は本件性的虐待行為を認めず,その後,その一部を認めたものの開き直った態度に終始し,本件訴訟においては,原審及び当審を通じて,謝罪を示す陳述書を提出せず,期日に出頭もしないどころか,後記(4)のとおり「近所にビラをまいてやる。」などと脅されたとの事実に反する主張をしている。
 このような筆舌に尽くし難い甚大かつ深刻な経過,予後や,被控訴人が不誠実な態度に終始し何ら慰謝の措置を講じていないことを踏まえれば,控訴人が,「魂の殺人」行為である本件性的虐待行為により,計り知れない精神的苦痛を受けたことは明らかであり,その精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は3000万円を下らない。

エ 弁護士費用 119万7000円
 控訴人は,被控訴人から本件性的虐待行為を受けたことにより被った損害の賠償を求めるため,弁護士に委任して本件訴訟を提起する必要があり,そのための弁護士費用として119万7000円の支出を余儀なくされた。

オ 上記合計額 4175万1204円

(被控訴人)
 争う。

(4) 争点(4)(本件性的虐待行為を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権は時効により消滅したか)について
(被控訴人)
ア 仮に控訴人が被控訴人から性的行為を受けたことによりPTSDを発症したのであれば,その発症時期は遅くとも当該行為を受けた時から6か月以内のはずである。そうすると,控訴人はその頃までにPTSDを発症し,その時点で診断を受けたかどうかにかかわらず,損害及び加害者を知ったのであるから,遅くとも控訴人が成人に達した平成6年□□□□□から民法724条前段の消滅時効が進行する。したがって,控訴人が本件訴訟を提起した平成23年4月28日には消滅時効が完成している。
 被控訴人は,前提事実(6)イのとおり消滅時効を援用するとの意思表示をし,上記損害賠償請求権は時効により消滅した。

イ 被控訴人が債務を承認したとの控訴人の主張は争う。
 被控訴人は,前提事実(5)のとおり,平成23年3月17日,控訴人に対し,本件性的虐待行為の一部をしたことを認め,500万円の支払を申し出たが,このような対応をしたのは,控訴人が刑事告訴をすると述べたり,「近所にビラをまいてやる。」,「1週間以内に500万円を用意しろ。」などと脅したからであって,自由な意思に基づくものではないから,消滅時効の中断事由である承認には当たらない。

(控訴人)
ア 控訴人が,損害だけでなく,加害者までを知ったのは,平成23年3月11日に発生した東日本大震災をきっかけに本件性的虐待行為を受けたことを告白することを決意できた同月後半頃である。したがって,控訴人が本件訴訟を提起した平成23年4月28日には消滅時効が完成していない。

イ 被控訴人は,平成23年3月17日,控訴人に対し,本件性的虐待行為の一部をしたことを認め,その損害賠償として500万円の支払を申し出た。したがって,民法724条前段の消滅時効の起算日をどのように解しようとも,被控訴人が同日に債務を承認したことで,消滅時効が中断したか又は時効の利益を放棄したのであるから,上記損害賠償請求権は消滅していない。

 また,後記(5)イで主張するとおり,親族間での幼少期の性的虐待行為は被害者が損害賠償請求権を行使するのが困難な不法行為であり,「魂の殺人」行為を行った被控訴人が時効による法的利益を享受することは,権利濫用に当たり信義則に反するものであって許されない。したがって,仮に消滅時効が完成し,かつ,同日のやり取りが債務の承認に当たらないとしても,上記損害賠償請求権は消滅していない。

(5) 争点(5)(上記損害賠償請求権は民法724条後段の規定により消滅したか)について
(被控訴人)
 民法724条後段は除斥期間を定めた規定であるから,控訴人の主観的な認識にかかわらず,「不法行為の時」から20年が経過した時点で,その損害賠償請求権は当然に消滅する。また,同条後段は,加害者が援用しなくても適用されるものであるから,控訴人の権利濫用,信義則違反の主張は,主張自体失当である。

 そうすると,控訴人が本件訴訟を提起した平成23年4月28日の時点で,被控訴人が控訴人に対して最後に性的行為をした昭和58年1月上旬から20年が経過しているから,上記損害賠償請求権は消滅している。
 控訴人がPTSDを発症したのは昭和58年頃であり,本件は,損害の性質上,加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合には当たらない。

(控訴人)
ア 民法724条後段は,除斥期間ではなく,消滅時効を定めた規定である。上記(4)で主張したとおり,被控訴人は債務を承認し,仮に承認をしたとは認められないとしても,被控訴人が時効による法的利益を享受することは,権利濫用に当たり信義則に反するものであって許されない。したがって,上記損害賠償請求権は消滅していない。


(ア) 仮に民法724条後段が除斥期間を定めた規定であっても,その起算日は,本件性的虐待行為を受けた時でも,PTSDを発症した時でもない。すなわち,親族間での幼少期の性的虐待行為には,このことによる精神障害の遅発性,多様性のほか,①被害者において性的意味が分からないうちはこのことを理由とする損害賠償請求をすることはあり得ないし,意味が分かってからも,永続的な恥辱感,絶対的な隔絶感,孤立無援感や,本来安心できる居場所である家庭を失うことを恐れて,被害を隠そうとする,②法定代理人である親権者において,性的虐待行為があったことを知っても,親族である加害者を擁護する,③親族である加害者において性的虐待を隠すため心理的影響を及ぼす,との特徴がある。実際に,控訴人は,被控訴人から本件性的虐待行為を受けた当初はその性的意味が分からず,小学校の性教育でその性的意味を知ったが,学校,同級生に知られることで好奇な目で見られたり,いじめられたりすることや,家族に知られることで家族関係,親族関係が破綻することを恐れ,平成23年3月17日まで,□□□□□に対し,本件性的虐待行為を受けたことを告白することができなかった。□は,この時,本件性的虐待行為があったことを認めたがらず,被控訴人が自殺するかもしれないなどと被控訴人のことを心配する態度に終始していた。また,被控訴人は,本件性的虐待行為をしていた当時,控訴人に対し,「誰かに話したら大変なことになるよ。」などと言って,口止めをしていた。

 以上のとおり,本件性的虐待行為を受け,精神障害を発症したことを理由とする損害賠償請求権は,被害者である控訴人においてその権利行使が困難であった。

 また,PTSDが一般的に知られるようになったのは,阪神・淡路大震災や地下鉄サリン事件が発生した平成7年1月ないし3月以降のことであり,それ以前にPTSDを発症したからといって,PTSDを発症したとの診断を受けることは不可能であり,当該診断を受けなければ,被害者は,当該症状が性的虐待行為を受けたことによるとの認識をすることはできないし,これを理由とする損害賠償請求権を行使することもできない。
 したがって,控訴人は,上記診断を受けたときに初めて,自分にみられる精神障害が本件性的虐待行為を受けたことによることを認識し,上記損害賠償請求権を行使できるようになったのであるから,上記診断日である平成23年4月4日を「不法行為の時」と解すべきである。

(イ) 当該不法行為により発生する損害の性質上,加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合には,当該損害の全部又は一部が発生した時が「不法行為の時」となる。上記(2)イで主張したとおり,幼少期に性的虐待行為を受けたことによる精神障害は,症状の遅発性,多様性を重要な特徴としており,実際に,控訴人も,本件性的虐待行為を受けたことにより,昭和58年頃にPTSD及び離人症性障害を,高等学校在学中に特定不能の摂食障害を発症し,平成18年9月頃に難治性重度うつ病を発症した。

 性的虐待行為を受けたことによりPTSDを発症するとともに,相当期間経過後に合併症としてうつ病を発症することがあり得るが,両者は,診断基準,主症状が異なる別個の精神障害である。
 そうすると,本件性的虐待行為による精神障害の全部が発生したのは,早くてもうつ病を発症した平成18年9月頃である。したがって,同月頃が「不法行為の時」と解すべきである。

(ウ) 上記(ア)で主張したとおり,本件性的虐待行為があった当時,控訴人が単独で損害賠償請求をすることはもちろん,法定代理人である親権者ないし家庭裁判所が選任する特別代理人が被害者に代理して請求することも,事実上不可能であった。
 このような事情からすれば,控訴人には,成人に達するまでは,上記損害賠償請求権を行使する可能性がなかったのであるから,控訴人が成人に達し,法律上,単独で損害賠償請求をすることができるようになった平成6年□□□□□が「不法行為の時」と解すべきである。

ウ 民法159条は,夫婦関係を維持することと請求権を行使することとが相矛盾することから,夫婦関係を解消するまでは時効の完成を制限することをその趣旨としており,このことは親族間の権利行使についても同様である。上記イ(ア)で主張したとおり,控訴人は,平成23年3月後半まで本件性的虐待行為を受けたことを告白することすらできなかった。このような事情からすると,被控訴人が本件性的虐待行為の一部を認めた平成23年3月17日又は控訴人が□に対して本件性的虐待行為を受けたことを告白した同月16日から6か月が経過するまでは,民法159条の法意に照らして,民法724条後段の効果は生じないと解すべきである。控訴人はこれらの日から6か月以内である同年4月28日に本件訴訟を提起したから,上記損害賠償請求権は消滅していない。

エ 仮に民法724条後段が除斥期間を定めた規定であるとしても,特段の事情があるときには,加害者において同条の適用を求めることは,権利濫用に当たり信義則に反するものであって許されないというべきである。
 上記イで主張したとおり,本件性的虐待行為を受け,精神障害を発症したことを理由とする損害賠償請求権は,被害者である控訴人においてその権利行使が困難であった。他方,被控訴人は,犯罪行為である本件性的虐待行為を行うだけでなく,口止めまでして控訴人による損害賠償請求権の行使を妨げた。このような事情からすると,被控訴人が同条の適用を求めることは,権利濫用に当たり信義則に反するものであって許されない。

以上:5,336文字


幼少期性的虐待除斥期間適用排斥平成26年9月25日札幌高裁判決全文紹介3

第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件性的虐待行為の有無・程度)について
(1) 控訴人は,現時点で時期及び行為を特定できるものに限っても,第2の4(1)(控訴人)記載のとおり,被控訴人からわいせつ行為ないし姦淫(本件性的虐待行為)を受けたと主張し,原審及び当審における尋問並びに陳述書(甲9,甲28)においても,同様のことを述べる。

(2) 後記2で認定するとおり,控訴人は,昭和58年頃にはPTSD及び離人症性障害を発症しているが,本件全証拠を検討しても,被控訴人から本件性的虐待行為を受けたことのほかに,上記発症の原因となる出来事があったとは認められない。また,控訴人が主張する本件性的虐待行為の態様は,当初は臀部をなで回される,性器を触られるというものであったのが,時間の経過とともに大胆,悪質なものになっていき,最終的には姦淫に至ったというものであり,幼少期の被害者が性的意味を知らないこともあって取り立てて嫌がったり抵抗する様子をみせることのないことに乗じて,加害者である親族が被害者の成長に応じて加える性的行為を大胆,悪質なものにしていくことは,十分に想定される得るところであり,同主張の具体的内容に不自然な点はない。そして,本件全証拠を検討しても,控訴人が,被控訴人を殊更おとしめたり,虚偽の事実を述べるのがもっともな動機,事情はうかがわれない。
 このような事情からすると,控訴人の供述は,その記憶のとおりに述べたものとみるのが相当である。

(3) これに対し,被控訴人は,本件性的虐待行為の一部を認めるものの,姦淫の事実は試みたにとどまると主張する。しかしながら,被控訴人は陳述書を含め証拠を全く提出しない上,控訴人と被控訴人との平成23年3月17日における話合いの録音反訳書(甲13)によれば,同話合いの際,被控訴人は姦淫の事実を肯定したことが認められるのであって,これと相反する被控訴人の主張は,その正確性に疑いを入れざるを得ず,採用することができない。

(4) 以上検討したところによれば,本件性的虐待行為の具体的な時期及び内容は,おおむね控訴人が主張するとおりのものであったと認められる。

2 争点(2)(本件性的虐待行為による精神障害の発症の有無)について
(1) 事実経過
 前提事実,関係証拠(甲9~11,16,28,原審及び当審におけるB医師の証言,原審及び当審における控訴人本人)及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。

(ア) 控訴人は,被控訴人から本件性的虐待行為を受けていた昭和53年1月上旬から昭和58年1月上旬にかけて,当時その性的意味は分からなかったが,不快感,違和感,恐怖感,不安感,無力感を感じており,①物心が付いた頃から指の爪をかむ癖がついていたほか(この癖は現在も続いており,ひどいときには足の指をかむこともある。),②昭和55年8月上旬頃(当時6歳5か月)以降は,本件性的虐待行為を受けているときに,「何が現実で何が夢の中の出来事なのか分からない。」,「自分が自分でなくなってきている気がする。」,「生きている実感がない。」との非現実感(現実感の喪失),離人感を感じるようになり,さらに,③昭和56年1月上旬頃(当時6歳10か月)以降は,本件性的虐待行為を受けている時に,「もう1人の自分が自分のことを見つめている」との解離症状を自覚するようになった。

(イ) 控訴人は,昭和59年1月頃(当時9歳10か月)までに小学校で性教育を受けたことから,本件性的虐待行為の性的意味が分かるようになり,本件性的虐待行為を受けた時の記憶(上半身裸の被控訴人が迫ってくる情景)が突然思い出されたり,睡眠中に悪夢となって出てくるとのフラッシュバック症状が増悪した。控訴人には,□□□□□□□□□□していた頃から,入眠障害,中途覚醒,早朝覚醒との睡眠障害が表れ,このことにより本件性的虐待行為を受けた時の記憶が思い出される頻度が増え,睡眠導入剤を服用しなければ就寝できなくなった。

(ウ) 控訴人は,本件性的虐待行為の性的意味が分かるようになった頃から,本件性的虐待行為を受けたことにより「汚れてしまった。」,「生きている価値がない。」と自己肯定感を持つことができなくなり,「早く死にたい。」,「長生きしたくない。」,「もう一度きれいな体で生まれ変わりたい。」などとの希死念慮がみられるようになった。□□□□□□□□□□は,手首を軽くカミソリで切ったこともあった。

(エ) また,控訴人は,外見に対する劣等感が強く,高等学校入学後には,無理な減量を繰り返すとの摂食障害がみられるようになった。

(オ) 上記(ア)ないし(ウ)の解離症状,フラッシュバック症状及び希死念慮は,前提事実(3)のとおり,高等学校卒業後現在までの生活歴を通じてみられている。


(ア) 控訴人には,上記アのとおり,解離症状,フラッシュバック症状及び希死念慮がみられ,また,集中力を保つのが困難である,男性と接すると異常に緊張したり,恐怖を感じたり,かっとなってしまう,常に他人からどう思われるか気にする,物事を悲観的に捉える(いわゆるマイナス思考が強い。),自分の内心を隠して無理に明るく振る舞う(快活さと落ち込みやすさの二面性がある。),集団生活に困難さ,イライラ感,息苦しさを感じるといった傾向がみられたが,欠席・欠勤,遅刻,早退をすることなく,前提事実(3)のとおり,□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□勤務をしていた(□□□□□□□□□□□□□□□□□過重労働によりうつ病,拒食症を発症した□□□がいたが,控訴人はそのようなことなく□□□で勤務をしていた。)。

(イ) 控訴人は,□□□□□□□□□に□□と婚姻したが,その際,□□に対し,現実感の喪失,離人症,自己肯定感がないことは告げていたが,本件性的虐待行為を受けたことは告げていなかった。
 控訴人は,□□が子供を作ることを希望しており,控訴人自身も子供好きで不妊治療を受けていたが,本件性的虐待行為を受けたことにより,「汚されたところから子供を産む恐怖」,「自分が子供を育てられるのかとの葛藤」,「女の子を産んだら被害者にならないか。男の子を産んだら加害者にならないか。」との不安感,恐怖感を感じ,このような不安感,恐怖感は,控訴人が妊娠適齢期に差し掛かっていたこともあって,日増しに高まっていた。

(ウ) 控訴人は,□□が□□□□□□□□□□に□□□□□□□に□□□□□□したことから,□□□□□□□□□□□勤めるとともに,経理などの事務を含めて統括的な業務に従事していた。□□□での業務は多忙であり,控訴人は立って昼食を摂ることもあったが,やりがいを感じていた。しかし,平成18年6月頃,控訴人は,□□も被控訴人から性的虐待行為(ただし,その頻度及び程度は,本件性的虐待行為ほどではなかった。)を受けていたことを初めて知った。
 控訴人は,同年9月から,□□□□で,□□と一緒に勤務を始めたが,□□と毎日接することで,本件性的虐待行為を受けた記憶を思い出すだけでなく,□□が被控訴人から性的虐待行為を受けていたのを見たことがあったことを思い出し,強いストレスを感じるようになった。

(エ) 控訴人には,平成18年9月頃以降,著しい不眠(入眠障害,中途覚醒,悪夢,夜驚),意欲低下,イライラ感,億劫感,胸部庄迫感,頭痛,発汗及び体重の減少がみられるようになった。
 控訴人は,平成18年12月頃以降,□□から向精神薬の処方,□□□□□□□□□□□□□□□□での通院治療を受けたが,症状の改善がみられず,平成19年7月頃には,日中は動くことができず,食事の準備などの家事もできなくなり,また,化粧などの身だしなみもできなくなった。さらに,平成20年には,□□□□□□□だけでなく,入浴などの身の回りのこともできなくなり,また,□□が自殺を心配するほど希死念慮が強まった。

 控訴人は,上記不眠,希死念慮などを訴えて,平成21年2月25日から釧路赤十字病院精神科で通院治療を受けたが,症状の改善はみられなかった。控訴人は,平成23年1月頃の□とのけんかをきっかけとして,同年2月2日に釧路赤十字病院で受診し,主治医に対し,被控訴人から本件性的虐待行為を受けたことを告白した。

 □□は,平成23年3月29日付け「診療情報提供書」により,釧路赤十字病院のA医師に対し,控訴人が約5年前にうつ病を発症してからその原因となるエピソードがないので不思議に思っていたが,この度,控訴人から本件性的虐待行為を打ち明けられ,それに起因するのではないかと考えるに至った旨の意見を提供した。
 釧路赤十字病院精神科のA医師は,平成23年4月4日,虐待後6か月以内の記憶があいまいだが,控訴人がPTSDを発症していると診断すると(ママ)もに,病名を「心的外傷後ストレス障害・抑うつ状態」とする同日付け診断書を作成した。
 控訴人は,平成23年8月1日,女性生涯健康センターにおいて,B医師の診察を受け,同日以降,同センターで通院治療を受けている。

ウ B医師の診断(甲16,54,原審及び当審におけるB医師の証言)によれば,①控訴人の臨床疾患は,PTSD(外傷性ストレス障害),離人症性障害,うつ病(大うつ病エピソード)及び摂食障害であり,PTSD及び離人症性障害がまず発症し,高等学校在学中に摂食障害が新たに発症し,さらに,平成18年頃,うつ病が新たに発症した,②PTSDが主診断(治療において最も優先すべき疾患)であり,他の3疾患は合併症であって,現存症としてこの4者が併存されるに至った,③上記合併症は,主診断に付随ないし従属して発症したものではなく,互いに独立して存在する疾患である,④摂食障害及びうつ病の発症に深く関わっているのは,本件性的虐待行為であり,PTSDではない,⑤控訴人のうつ病の発症時期は,著しい不眠(入眠障害,中途覚醒,悪夢,夜驚),意欲低下,イライラ,億劫感,胸部圧迫感,頭痛,発汗などの症状に悩まされるようになり,体重も短期で約10キログラム減少し,すなわち要素的症状が十分に出そろい,一定期間持続し,生活に著しい支障をきたすようになった平成18年9月頃である,⑥控訴人のうつ病は,重度かつ難治化し,症状固定しておらず,寛解の見通しは立っていない,とされている。

(2) 医学的な知見(甲16,22,25,31,40,41,43~45,54,原審及び当審におけるB医師の証言)
ア PTSDについて
 PTSDとは,危うく死ぬ又は重傷を負うような出来事,自分の身体の保全に迫る危険に直面し,強い恐怖,無力感,戦慄するとの心的外傷的な出来事(トラウマ体験)に暴露されたことで発症する不安障害の一種であり,睡眠障害,集中力を保つのが困難である,過度の緊張感,恐怖感といった過覚醒症状,トラウマ体験を想起させる刺激からの回避傾向,トラウマ体験の再体験(フラッシュバック)が主たる症状とされている。

 PTSDの発症には,トラウマ体験の性質,体験した時の被害者の年齢及び主観的認識,その後のケア,社会的サポートの有無・程度などの要因が関わっている。幼少期の性的虐待は,トラウマ体験の性質,被害者の年齢のいずれからみても発症率が高く,被害者は性的意味が分からなくても,非常に不快,危険に感じているときには発症し得るとされている。
 その治療方法には,トラウマ焦点化認知行動療法,選択的セロトニン再取込阻害薬(SSRI)などの薬物療法がある。

イ うつ病について
 うつ病は,気分障害の一種であり,集中力・注意力の減退,抑うつ気分,罪責感,希死念慮,睡眠障害,食欲不振といった症状がみられる精神障害である。これらの症状が2週間以上持続し,社会的,職業的領域における機能の障害を引き起こしているときには大うつ病エピソードと診断される。
 うつ病の発症原因ないし経過は必ずしも明らかにはなっていないが,ストレス性の出来事は発症原因となり得るものであり,ストレス性の出来事には性的虐待行為を受けたことも含まれる。幼少期に性的虐待行為を受けた被害者は,そのような被害に遭っていない者と比べて,成人になってから大うつ病エピソードの発症率が高いとの研究結果がある。

ウ PTSDとうつ病の関係について
 幼少期に性的虐待行為を受けた被害者にあっては,PTSDを発症するとともに,その合併症としてうつ病,解離性障害を含む様々な精神障害を発症することがあるとされており,PTSDとうつ病が50パーセント以上の割合で合併するとの疫学的研究もある。また,PTSDを発症してから相当期間経過後にうつ病を発症するとの臨床例もみられる。
 もっとも,PTSDとうつ病は,上記ア,イのとおり,同一の出来事(トラウマ体験ないしストレス性の出来事)をきっかけとして発症する精神障害であり,併存し得るが,両者は診断基準,主たる症状,治療方法は別個の精神障害である。PTSDを発症したからといってうつ病を当然に発症するとか,うつ病を発症したからといってPTSDを当然に発症するといった原因結果の関係にはない。

(3) 検討
ア 上記(1)ア(イ),(エ),同イ(ア)で認定したとおり,控訴人には,昭和59年1月頃(当時9歳10か月)までにはフラッシュバック症状,解離症状がみられるとともに,睡眠障害,集中力を保つのが困難である,男性と接すると異常に緊張したり,恐怖を感じるといった過覚醒症状ないしトラウマ体験を想起させる刺激からの回避傾向もみられ,さらに,高等学校在学中には摂食障害がみられていた。幼少期の性的虐待によるPTSDの発症率が高く,PTSDの合併症として解離性障害も発症することがあるとされていることは上記(2)アで認定したとおりである。

 このような事情のほか,関係証拠(甲31)によると,幼少期に性的虐待による影響として自尊心の低下が指摘されており,高等学校在学中にみられた摂食障害が外観に対する強い劣等感によるものであったことも考慮するならば,控訴人は,A医師及びB医師が診断しているとおり,昭和58年頃にPTSD及び離人症性障害を,高等学校在学中に特定不能の摂食障害を発症し,これらの精神障害は,いずれも被控訴人から本件性的虐待行為を受けたことによるものであったと認めるのが相当である。


(ア) 他方で,控訴人には,平成18年9月頃より前にも,上記(1)ア(イ),(ウ),同イ(ア)で認定したとおり,集中力を保つのが困難である,希死念慮があり手首を軽くカミソリで切ったことがあるとの出来事,睡眠障害はみられていたが,欠席・欠勤,遅刻,早退をすることなく,□□□□□□□をし,日常生活にも支障があった様子はうかがわれない。また,本件全証拠を検討しても,□□□□□□□□□□が,平成18年12月頃まで,控訴人がうつ病を発症していると疑っていた様子はうかがわれないのであって,このような事情からすると,控訴人は,本件性的虐待行為を受けた後,うつ病を発症しないままで推移していたとみるのが相当である。

(イ) ところが,控訴人には,上記(1)イ(エ)で認定したとおり,平成18年9月頃以降,著しい不眠(入眠障害,中途覚醒,悪夢,夜驚),意欲低下,イライラ感,億劫感,胸部圧迫感,頭痛,発汗及び体重の減少がみられ,向精神薬の処方,通院治療を受けたが,その症状は増悪し,平成20年には,□□□□□□□だけでなく,入浴などの身の回りのこともできなくなり,□□が自殺を心配するほどに希死念慮が強まったことが認められるところ,幼少期に性的虐待行為を受けた被害者は成人になってから大うつ病エピソードの発症率が高いとされること,幼少期に性的虐待行為を受けた被害者にあっては,PTSDを発症するとともに,その合併症として50パーセント以上の割合でうつ病を発症することがあり,PTSDを発症してから相当期間経過後にうつ病を発症するとの臨床例もみられることは上記(2)イ,ウで認定したとおりである。このような事情のほか,当審におけるB医師の証言によると,消耗性のうつ状態は休養により改善するものであるのに難治化していることからすれば,うつ病発症の原因が診療所での過重勤務によるとは考え難いとされていることも考慮すると,B医師が診断しているとおり,控訴人は,平成18年9月頃にうつ病を発症し,その原因は本件性的虐待行為を受けたことによるものであったと認めるのが相当である。

以上:6,863文字


幼少期性的虐待除斥期間適用排斥平成26年9月25日札幌高裁判決全文紹介4

3 争点(5)(本件性的虐待行為を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権は民法724条後段の規定により消滅したか)について
(1) 本件事案に鑑み,次に争点(5)について検討する。
 民法724条がその前段で3年の短期の時効について規定し,更に同条後段で20年の長期の時効を規定していると解することは,不法行為をめぐる法律関係の速やかな確定を意図する同条の規定の趣旨に沿わず,むしろ同条前段の3年の時効は損害及び加害者の認識という被害者側の主観的な事情によってその完成が左右されるが,同条後段の20年の期間は被害者側の認識のいかんを問わず,一定の時の経過によって法律関係を確定させるため請求権の存続期間を画一的に定めたものと解するのが相当であるから,同条後段の規定は,不法行為によって発生した損害賠償請求権の除斥期間を定めたものと解するのが相当であり,除斥期間が経過した場合には,当該損害賠償請求権は法律上当然に消滅したことになるのであるから,裁判所は,除斥期間の性質に鑑み,当該損害賠償請求権が除斥期間の経過により消滅した旨の主張がなくても,除斥期間の経過により当該損害賠償請求権が消滅したものと判断すべきものである(最高裁昭和59年(オ)第1477号平成元年12月21日第一小法廷判決・民集43巻12号2209頁参照)。

 したがって,同条後段が消滅時効を定めた規定であることを根拠とする控訴人の主張及び除斥期間を定めた規定であっても,被控訴人が同条後段の適用を求めることは権利濫用に当たり信義則に反することを根拠とする控訴人の主張(第2の4(5)(控訴人)ア,エ)は,いずれも採用することができない。

(2)
ア 控訴人は,同条後段が除斥期間を定めた規定であっても,その起算日である「不法行為の時」は,自分にみられる精神障害が本件性的虐待行為を受けたことによることを認識しその損害賠償請求権を行使できるようになった時,すなわち,控訴人がPTSDを発症しているとの診断を受けた平成23年4月4日と解すべきであると主張する。


(ア) しかし,同条後段所定の除斥期間の起算点は「不法行為の時」とされているのであるから,加害行為が行われた時に損害が発生する不法行為の場合には,加害行為の時が起算点になると解される。他方,一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる疾病による損害のように,当該不法行為により発生する損害の性質上,加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合には,当該損害の全部又は一部が発生した時が除斥期間の起算点となると解するのが相当である(最高裁平成13年(受)第1760号平成16年4月27日第三小法廷判決・民集58巻4号1032頁,最高裁平成13年(オ)第1194号・第1196号,同年(受)第1172号・第1174号平成16年10月15日第二小法廷判決・民集58巻7号1802頁,最高裁平成16年(受)第672号・第673号平成18年6月16日第二小法廷判決・民集60巻5号1997頁参照)。

 これを本件についてみるに,控訴人は,本件性的虐待行為を受けていた昭和53年1月上旬から昭和58年1月上旬にかけて,当時はその性的意味は分からなかったものの,不快感,違和感,恐怖感,不安感,無力感を感じるとともに,昭和55年8月上旬頃(当時6歳5か月)以降は非現実感(現実感の喪失),離人感,昭和56年1月上旬頃(当時6歳10か月)以降は解離症状を自覚していたほか,昭和59年1月頃(当時9歳10か月)までにはフラッシュバック症状が現れていたことは,上記2の(1)ア(ア),(イ)で認定したとおりであり,昭和58年頃にはPTSD及び離人症性障害を発症したこと,高等学校在学中に特定不能の摂食障害を発症したことは,同(3)アで認定したとおりである。

 したがって,本件性的虐待行為を受け,PTSD及び離人症性障害を発症したことを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権は,被控訴人から本件性的虐待行為を受けた最終の時期である昭和58年1月上旬頃又はこれらの精神障害を発症した昭和58年頃を除斥期間の起算点と認めるのが相当である。また,摂食障害を発症したことを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権は,同障害による損害がその性質上,加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に発生する場合に該当するとしても,遅くても控訴人が高等学校在学中の平成2年末頃を除斥期間の起算点と認めるのが相当である。

(イ) 関係証拠(甲21,26,原審におけるB医師の証言)によると,PTSDとの概念が一般的に知られるようになったのは,阪神・淡路大震災及び地下鉄サリン事件が発生した平成7年1月ないし3月以降のことであり,それ以前にPTSDとの診断を受けることは困難であったと認められるが,精神障害を発症した場合には,被害者に苦痛や日常生活上の支障などの損害が発生したとみるべきであって,障害の発症原因,障害名について現在からみて正確な診断を受けられなかったからといって,現実に損害が発生した事実を左右するものではなく,このことを理由に除斥期間が進行しないと解することはできない。

(ウ) 控訴人は,本件性的虐待行為があった当時,自ら単独で損害賠償請求をすることも,法定代理人である親権者ないし家庭裁判所が選任する特別代理人が被害者に代理して請求することも,事実上不可能であったから,控訴人が成人に達し単独で損害賠償請求をすることができるようになった□□□□□□□□□が「不法行為の時」と解すべきであると主張する。しかし,民法724条後段の20年の期間は被害者側の認識のいかんを問わず,一定の時の経過によって法律関係を確定させるため請求権の存続期間を画一的に定めたものと解すべきことは上記(2)のとおりであり,また,幼少期に親族から性的虐待行為を受けた被害者が,成人に達するまではこのことを理由とする損害賠償請求権を行使することがおよそ不可能であると認めることはできない。したがって,控訴人が指摘する上記事情は,上記(ア)の認定判断を左右するものではない。

(エ) 以上のとおり,本件性的虐待行為を受け,PTSD,離人症性障害及び摂食障害を発症したことを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権は,控訴人が本件訴訟を提起した平成23年4月28日には除斥期間が経過しているというべきである。

ウ 控訴人は,被控訴人が控訴人に対して本件性的虐待行為の一部をしたことを認めた平成23年3月17日又は控訴人が□に対して本件性的虐待行為を受けたことを告白した同月16日から6か月が経過するまでは,民法159条の法意に照らして,民法724条後段の効果は生じないと主張する。

 しかし,控訴人は,被控訴人から本件性的虐待行為を受けていた時から,このこと自体は認識するとともに,その頃から,障害の発症原因,障害名はともかく,PTSD,離人症性障害及び摂食障害による症状を自覚していたことは,上記2(1)アで認定したとおりである。また,関係証拠(甲9,当審における控訴人本人)によると,被控訴人は,本件性的虐待行為をしていた当時,控訴人に対し,「誰かに話したら大変なことになるよ。」,「他の人に言ってはだめだよ。」などと言って口止めをしていたことは認められるが,それ以上に,控訴人が成人に達する前後を通じて,控訴人ないし成人に達するまでの法定代理人である□□□□□□に対し,権利行使を妨げる行為に及んだ様子はうかがわれない。幼少期に親族から性的虐待行為を受けた被害者において,成人に達するまではこのことを理由とする損害賠償請求権を行使することがおよそ不可能であるとみることはできないことは,上記イ(イ),(ウ)で検討したとおりであり,家族に知られることで家族関係,親族関係が破綻することを恐れていたとの控訴人が主張する事情は,権利を事実上行使できなかったという主観的なものにすぎない。
 したがって,控訴人において平成23年3月17日又は同月16日までおよそ権利行使が不可能であったとみることはできず,これらの日から6か月が経過するまでは民法159条の法意に照らして民法724条後段の効果は生じないとの控訴人の主張は,採用することができない。

(3)
ア 他方,一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる疾病による損害のように,当該不法行為により発生する損害の性質上,加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合には,当該損害の全部又は一部が発生した時が除斥期間の起算点となると解すべきことは,上記(2)イ(ア)のとおりである。

イ 控訴人は,上記2(3)イ(イ)で認定したとおり,本件性的虐待行為を受けたことにより,平成18年9月頃にうつ病を発症している。また,幼少期に性的虐待行為を受けた被害者にあっては,PTSDを発症するとともに,その合併症としてうつ病,解離性障害を含む様々な精神障害を発症することがあるとされており,PTSDとうつ病が50パーセント以上の割合で合併するとの疫学的研究,PTSDを発症してから相当期間経過後にうつ病を発症するとの臨床例,成人になってから大うつ病エピソードの発症率が高いとの研究結果もみられるが,うつ病は,PTSDとは,診断基準,主たる症状,治療方法が別個の精神障害であり,PTSDを発症したからといってうつ病を当然に発症するとか,うつ病を発症したからといってPTSDを当然に発症するといった原因結果の関係にはないことは上記2(2)イ,ウで認定したとおりである。

 そして,控訴人は,上記2(1)で認定したとおり,昭和58年頃にPTSD及び離人症性障害を,高等学校在学中に特定不能の摂食障害を発症したが,その後平成18年9月頃まではうつ病を発症しないまま推移していたものであるところ,うつ病を発症するまでは,欠席・欠勤,遅刻,早退をすることなく,□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□日常生活にも支障を生じていなかったが,平成18年9月頃にうつ病を発症した後は,著しい不眠(入眠障害,中途覚醒,悪夢,夜驚),意欲低下,イライラ感,億劫感,胸部圧迫感,頭痛,発汗及び体重の減少がみられ,平成20年には,□□□□□□□だけでなく,入浴などの身の回りのこともできなくなり,希死念慮が強まったこと,控訴人のうつ病は,重度かつ難治化し,症状固定しておらず,寛解の見通しが立っていないとされていること等,控訴人の発症したうつ病の性質に鑑みると,その症状に基づく損害は,それまでに発生していたPTSD,離人症性障害及び摂食障害に基づく各損害とは,質的に全く異なるものということができる。

 このような事情からすると,うつ病を発症したことによる損害は,その損害の性質上,加害行為である本件性的虐待行為が終了してから相当期間が経過した後に発生したものであり,かつ,それまでに発生していたPTSD,離人症性障害及び摂食障害に基づく損害とは質的に全く異なる別個の損害と認められるから,除斥期間の起算点は損害の発生した時,すなわち,うつ病が発症した時である平成18年9月頃というべきである。

(4) 小括
 以上の検討結果をまとめると,本件性的虐待行為を受け,PTSD,離人症性障害及び摂食障害を発症したことを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権は,民法724条後段所定の除斥期間の経過により消滅しているが,うつ病を発症したことを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権については,除斥期間が経過していないということができる。
 したがって,被控訴人は,控訴人に対し,本件性的虐待行為をしたことによりうつ病を発症させたことを理由として,不法行為に基づいて,その損害を賠償する義務がある。

以上:4,938文字


幼少期性的虐待除斥期間適用排斥平成26年9月25日札幌高裁判決全文紹介5

4 争点(3)(本件性的虐待行為により被った損害の有無・額)について
(1) 治療関連費用 (ア,イの合計額)919万9126円
ア 平成25年5月31日までに生じたもの
 関係証拠(甲6~8,12,16,28,46~52,原審及び当審におけるB医師の証言,原審及び当審における控訴人本人)によると,控訴人は,本件性的虐待行為を受けたことにより,PTSD,離人症性障害及びうつ病などの精神障害を発症したため,前提事実(4)の治療を受ける必要があり,そのための治療関連費用(治療費,調剤費用,カウンセリング費用,通院交通費及び宿泊費)の合計は95万2350円であったことが認められる。

 上記費用にはPTSDの治療と共通するものも含まれているが,当審におけるB医師の証言によると,うつ病の症状は,PTSDの症状に影響を受け,PTSDの治療がうつ病の改善に重要であることが認められるので,上記費用全部がうつ病の治療に必要な費用であると認められる。

イ 平成25年6月1日以降に生じたもの
 関係証拠(甲28,54,原審及び当審におけるB医師の証言,原審及び当審における控訴人本人)及び弁論の全趣旨によると,控訴人は,B医師の治療により,1日おきに簡単な掃除,調理程度はできるようになった(辛うじて日常生活が営める状態になった)が,現時点でもうつ病の精神障害は寛解しておらず,1か月に2回の頻度で,1回当たり4万4500円の治療関連費用(治療費,調剤費用,カウンセリング費用,通院交通費及び宿泊費)を負担して,女性生涯健康センターで通院治療を受ける必要があること,控訴人のうつ病は,重度かつ難治化し,症状固定しておらず,寛解の見通しは立っていないとされていること,性的被害に遭ったことにより精神障害を発症した女性にあっては少なくとも5,6年程度の治療が必要であるが,それ以上の治療期間を必要とすることも少なくなく,幼少期に性的虐待行為を受けた女性にあっては,より治療期間が長引く傾向にあるだけでなく,寛解する割合が小さいこと,症状の改善がみられたときには治療の頻度が増える可能性があることが認められる。

 このような事情からすると,控訴人は,うつ病を発症したことにより,平成25年6月1日以降少なくとも10年間,1か月に2回の頻度で,女性生涯健康センターで通院治療を受ける必要があると認めるのが相当である。そのための治療関連費用は,以下の計算式のとおり,824万6776円となる。
 上記費用にはPTSDの治療と共通するものも含まれるが,上記費用の全部がうつ病の治療に必要な費用であると認められることは上記アで説示したとおりである。
  〔計算式〕
  4万4500円(1回当たりの治療関連費用)×2×12か月×7.7217(10年間に対応するライプニッツ係数)=824万6776円(1円未満四捨五入)

(2) 慰謝料 2000万円
 控訴人が,被控訴人から本件性的虐待行為を受けたことで,極めて重大,深刻な精神的苦痛を受けたことは,当該行為を受けてから,子供時代,就職,進学,結婚といったライフステージを通じて,上記2(1)で認定したとおりの生活上の支障,心身の不調に悩まされたほか,妊娠,出産,育児に対する不安感,恐怖感を感じていたことから容易に想定できる。

 また,控訴人は,本件性的虐待行為を受けた後,上記2(1)で認定したとおり,生活上の支障,心身の不調に悩まされながらも,□□□□□□□□□□□□として働き,□□□□□□□□□□ではやりがいを持って働いていたが,うつ病を発症したことにより,□□□□□□□だけでなく,身の回りのこともできなくなったものである。上記イで認定したとおり,現時点では症状が軽快したものの,辛うじて日常生活が営める状態になった程度にとどまるものであり,発症してから約8年が経過しても,いまだ相当期間の治療を余儀なくされる状況で,寛解の見通しも立っていない。
 このような事情のほか,本件性的虐待行為の内容,期間及び頻度,平成23年3月17日における話合い以降現在に至るまで何ら謝罪の姿勢を示していない被控訴人の対応など,本件訴訟で現れた事情を総合考慮すると,控訴人の精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は,2000万円とするのが相当である。

(3) 弁護士費用 119万7000円
 弁論の全趣旨によると,控訴人は,被控訴人から本件性的虐待行為を受けたことにより被った損害の賠償を求めるため,弁護士に委任し,本件訴訟を提起する必要があったことが認められる。そのための弁護士費用は119万7000円と認めるのが相当である。

(4) 上記合計額 3039万6126円

5 争点(4)(本件性的虐待行為を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権は時効により消滅したか)について
(1) 被控訴人は,平成23年6月13日の原審における第1回口頭弁論期日において,控訴人の被控訴人に対する本件性的虐待行為を受けたことを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権について,消滅時効を援用するとの意思表示をしたことは前提事実(6)イのとおりである。

(2) 民法724条にいう「損害及び加害者を知った時」とは,被害者において,加害者に対する賠償請求をすることが事実上可能な状況の下に,それが可能な程度に損害及び加害者を知った時を意味し(最高裁昭和45年(オ)第628号同48年11月16日第二小法廷判決・民集27巻10号1374頁参照),同条にいう被害者が損害を知った時とは,被害者が損害の発生を現実に認識した時をいうと解するのが相当である(最高裁平成8年(オ)第2607号同14年1月29日第三小法廷判決・民集56巻1号218頁参照)。

 これを本件についてみるに,控訴人がうつ病を発症したのは平成18年9月頃と認められることは上記2(3)イ(イ)のとおりであるが,当時,控訴人はうつ病による症状の原因が本件性的虐待行為であったことを認識していたとは認められないこと,平成23年2月2日に釧路赤十字病院の主治医に対し被控訴人から性的虐待行為を受けたことを初めて告白したこと,□□は,同年3月29日付けで,控訴人が約5年前にうつ病を発症してから,その原因となるエピソードがないので不思議に思っていたが,控訴人が本件性的虐待行為を打ち明けたことから,それに起因するのではないかと考えに至った旨の意見を,同病院のA医師に提供したことからすると,控訴人は,平成23年2月頃,うつ病の症状が被控訴人から本件性的虐待行為を受けたことによるものであると認識するに至ったものと認められる。そうすると,控訴人が,うつ病を発症したことによる損害について,加害者である被控訴人に対する損害賠償請求が可能な程度に損害及び加害者を知ったのは,平成23年2月頃と認めるのが相当である。したがって,控訴人が本件訴訟を提起した同年4月28日には,うつ病を発症したことを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権について,消滅時効は完成していない。

(3) また,被控訴人が,平成23年3月17日,控訴人に対し,本件性的虐待行為の一部をしたことを認めるとともに,500万円を支払うとの申出をしたことは前提事実(5)のとおりであり,被控訴人の当該対応は,債務の承認に当たると認められる。そうすると,仮に控訴人が本件訴訟を提起した同年4月28日には消滅時効が完成していたとしても,被控訴人が消滅時効を援用することは許されないというべきである(最高裁昭和37年(オ)第1316号同41年4月20日大法廷判決・民集20巻4号702頁参照)。

 被控訴人は,上記の対応をしたのは控訴人が刑事告訴をすると述べたり,「近所にビラをまいてやる。」,「1週間以内に500万円を用意しろ。」などと脅したからであり,自由な意思に基づくものではないと主張する。しかし,本件全証拠を検討しても,控訴人が,被控訴人に対し,「近所にビラをまいてやる。」と述べたとは認められない。甲13によると,控訴人が,被控訴人に対し,刑事告訴をすると述べたり,1週間以内に500万円を支払うよう求めたことは認められるが,これに対し,被控訴人は,本件性的虐待行為の有無,程度について,自分の認識を十分に述べ,反駁していることが認められるのであって,被控訴人が,控訴人の言動により畏怖し,自由な意思に基づく対応ができなかったとは認められない。このことに関する被控訴人の主張は採用できない。

(4) したがって,被控訴人の消滅時効の抗弁は,理由がない。

第4 結論
 以上によれば,控訴人の請求は損害賠償金3039万6126円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があり,その余の部分は理由がない。
 したがって,控訴人の請求を全部棄却した原判決は失当であり,本件控訴及び当審における拡張請求に基づいて原判決を上記のとおり変更することとして,主文のとおり判決する。
   札幌高等裁判所第3民事部  裁判長裁判官 岡本 岳、裁判官 近藤幸康、裁判官  石川真紀子

以上:3,843文字


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担当弁護士

紹介 Azusa Nakano

中野システム研究所 所長

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